平成14年・刑法第1問

問題文

 甲は、Aに電話で罵倒されたため憤激し、A方に赴けば必ずけんかになるだろうと思いながら、この機会にAを痛めつけようと考え、こん棒を用意するとともに、友人の乙に、こん棒を持っていることは隠し、これからA方に話し合いに行くが、けんかになったら加勢してほしいと依頼した。乙は、気が進まなかったが、けんかの加勢くらいはしてやろうと考えてこれを承諾し、一緒にA方に行った。甲は、Aを呼んでも出てこないので裏口に回り、乙は、玄関先で待っていたところ、出てきたAが乙を甲と取り違え、いきなり乙に鉄棒で殴り掛かってきた。そこで、乙は、Aの攻撃を防ぐため、玄関先にあったコンクリート片をAに向かって投げたところ、コンクリート片はAの顔に当たり、顔面擦過傷を負わせ、さらに、Aの背後にいたBの頭にも当たり、頭部打撲傷を負わせた。なお、コンクリート片を投げたとき、乙はBがいることを認識していなかった。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ(ただし、特別法違反の点は除く)



答案構成

一 乙の罪責
 甲が凶器(こん棒)を用意していたことは知らなかったから、凶器準備集合罪(208条の2第2項)は不成立。
 Aに対する傷害罪に構成要件段階では明らかに該当。ただ、正当防衛で違法性阻却にあたるかは問題。
1 Aに対する罪責、Aの行為は、「急迫不正の侵害」(36条)にあたるか。
(1)正当防衛の要件
 「防衛のため」の行為・・・@「防衛の意思」が必要か。A必要な場合、その内容は?
 @偶然防衛を正当防衛とは認められない。よって、防衛の意思は必要。
 A侵害に対応する意思があれば足りる。防衛の意思と攻撃の意思が併存していてもよい。ただ、積極的加害意思がある場合はもはや防衛の意思とはいえない。

(2)「不正」な侵害か
 不正とは、法的に見て違法な状態のことである。
 まず、甲・乙はとりあえずは話し合いのため訪問したにすぎず、急迫不正の侵害とはいえないから、Aの行為は正当防衛にはあたらず、違法である。よって、Aの行為は不正の侵害である。

(3)「急迫」不正な侵害か、あるいは積極的加害意思をBが有するか。
 Bは、Aからけんかになるかも知れないことを聞かされた上で、けんかの加勢くらいはしてやろうと考えてこれを承諾し、一緒にA方に行ったのだから、@Aの侵害行為を予想していた以上急迫性が欠けるか、またAAを積極的に加害する意思を有しており、防衛の意思を欠くのではないかが問題になる。
 ただ、@急迫性とは侵害行為が時間的・場所的に差し迫っていること(正当防衛状況の構成要素)であり、行為者の主観で左右されない以上、このケースは急迫性に欠けない、A乙がコンクリート片を投げたのは防衛のためであり、またもともと乙は甲とAがけんかになったら加勢するのも仕方がない程度にしか考えていなかったのであり、積極的加害意思があったとはいえない。
 よって、Aに対しては正当防衛が成立する。

2 Bに対する罪責
(1)錯誤論の確認〜この帰結により適用する条文が変化する
 構成要件に該当する事実さえ認識していれば故意責任を問えるので、法定的符号説・数故意犯説が妥当。よって、構成要件の段階では、Bに対する傷害罪に該当する。
(2)Bは不正の侵害をおこなっていない。よって、正当防衛は不成立。
  それでは、緊急避難(37条)が成立するか。→法益の均衡や補充性が問題になるも、これは肯定できる。
 よって、Bに対しては緊急避難が成立する。

二 甲の罪責
1 こん棒を用意して乙を呼んだ・・・208条の2第2項(凶器準備結集罪)

2 一部行為の全部責任の原則
 その根拠・・・相手の行為を利用・補充して結果を惹起した。

3 乙の行為が甲に帰責されるか
 甲と乙との間にAに対する傷害の共謀が成立しているか?→「けんかになったら加勢してほしい」とは伝えてあり、共謀が 成立している。しかし、乙の行為は、当初の共謀とはまったく別の経緯で独自に起こった事態であるから、甲による乙の行為の利用・補充があったとはいえない。

   よって、甲には凶器準備結集罪のみが成立する。    以上




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